はぐくむ

ちいさな いのちをはぐくむ ちいさな日記です

命名

生まれたての命は透き通る湖のような目を開いて、お母さんはこんな顔をしていたんだね。
ぼくのことをよろしくね。
と語りかけます。
そのシワシワのおててが、あんよのなんと愛おしいことでしょう。
胸に抱くと何の迷いも疑いもなく、身をゆだねて微笑みをうかべます。

命はまだ「赤ちゃん」と呼ばれていて、何者でもない時間を過ごしていました。

アマゾンの奥地に生活する ヤノマミ族 の女性は出産した我が子が、人間なのか精霊なのかを母親自身が決めます。
人間ならば育てるため抱いて森から家へ連れてかえります。
精霊ならばバナナの葉に包み木に吊るして森へかえす。


赤ちゃんはみな精霊として生まれてきて、なまえをつけることによって人間として生きていくようになるのだと思えてなりません。
なまえの力が加わることによって、生きていく色や響きスピード感とか、そういうその人独特の雰囲気がはぐくまれる気がするのです。
離れることのないずーっと纏うベールのような…。

わたしはそんな大層なものようつけられませ〜ん!

ってことで、この責任はお父さんに擦りつけることにしました!
テストに書くのが長い。とか 呼びにくい。とか 変なあだ名つけられた。などのクレームは一切受け付けずに   ああ〜お父さんがつけたからね〜  で逃げ切る作戦です!


生まれてしばらくして、つよくてしなやかなベールをかけてもらいました。

そうしてもらえたことがとても嬉しく幸せでした。
彼はこれからどんな色に染まるのか?どんな響きを聴かせてくれるのか?
楽しみでなりません。

素敵ななまえをありがとう。









誕生 終幕

目が覚めると身体が小刻みに震えていました、自分の意思ではどうすることもできずそれはだんだん大きくなって私の身体を震えが乗っ取っていきました。

不安と恐怖が一気に襲ってきて、目の前もぼんやりスモークがかかっているようでした。
 
身体から剥がされるような感じがして、ふわふわ。
どこにも行かないように、迷子にならないように手をつないで欲しくて、左手で誰かの手を探していました。ちゃんとつかまえていて欲しくて。
 
左手がナースコールに触れたのでしょう
いそいそと看護師さんがきてくれました。毛布をかけてもらい、先生呼びますね。と肩に触れてもらいました。
 
ここまでは、ぼんやり覚えています。
なんだか慌しい空気を感じながら、何人かの声を遠くで聞きながらまた深い暗い底にゆっくり沈んでいきました。
 
 
 
 
眠りから目覚めさせてくれたのは、小さな星の下の王子様。
透明の宇宙船 の中で黄色いガウンに包まれ、まだ何者でもない真っさらな命がスヤスヤ眠っていました。
 
私はしあわせだと心から思える。この子をしあわせにしたいと心から思う。
それが本当にうれしくて。うれしくて。
 
生まれたよ。
 
まだ、ふわふわ感が残ったまま、知らせを待っているであろう方にやっと届けることができました。
 
手術から12時間。再び彼の頬に触れて、小さな小さな手が私の指を握った時。
迷子にならないで帰って来れた。とほっとしました。
 
 
おめでとうそしてありがとう。
 
 
この言葉をかけてもらったことが、この日まではぐくんできたことをきらめく宝物にしてくれて、これからはぐくむことへの勇気を注いでくれました。
 
小さな優しい時間に生まれた奇跡はいま力強く生きています。
 
 
ありがとう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

誕生 2幕

ストレッチャーから見える廊下の天井には、蛍光灯が冷たく光っていて夜中の病棟は静かなトンネルでした。

ドラマや映画で観るシーンは、知らせを聞いて慌てて駆けつけた、家族や愛する人に見送られながら手術室へ向かう。
っていうのが定番ですが、現実はなかなかそうもいかないようで、わたしは一人、手術室までの変化の乏しい天井を車窓からの田んぼの風景のようにただ眺めていました。
看護師さん達のちょっとした雑談から、これからのことがわたしにとっては初めてでもここではそんなに特別なことではないことが分かり、少し緊張がほぐれる気がしました。
 
この命を生むときは、ひとりがいい。
 
おなかに命を感じた時から、ぼんやりそう思っていました。
そうなる気がしていたのです。
 
ですから寂しさはなく恐怖も感じず、淡々と進められる準備に身体を預けました。
 
手術台にはじめて上がると、無影灯がお星様の形をしていてキラキラとっても奇麗でした。
こんな時にも奇麗なものをキレイと感じられる自分に少しびっくりしましたが。
 
この子はこのお星様の下を生まれる場所に選んだのだな。と思うと、なんともこの子らしいと納得しました。
お星様の下で闘ってきた命を無事につなげることができますように。
ただ、それだけを祈っていました。
ほんとうにそれだけ。
 
麻酔科の先生が声をかけて、しばらくすると私は人魚になりました。
 
目の前には緑のカーテン?があり、その向こうも私なのだけど私のものではない感覚。
なんともへんてこな感覚です。
 
 
そんなこんなで、執刀医の先生の声でいよいよ始まりました。
 
聴覚と嗅覚が鋭くなっていて、聞こえる音から匂いから可能な限りの想像を膨らませました。
横にいてくれる看護師さんは逐一状況をライブ中継してくれましたので、頭の中で答え合わせしながら、もう直ぐ赤ちゃんでますよ〜!の掛け声を待っていました。
 
赤ちゃんでまーす!!
 
はい!どうぞ!
 
と言ったか言わなかったか?
 
ふんギャーーーー!
 
彼は足がまだお腹の中だというのに、いそいそと声を上げてくれました。
 
おなか押しますねー。!
 
はい!どうぞ!
 
とは言いませんでした。が御構い無しにぎゅーっと押されて無事に脱出成功。
 
んぎゃ〜!!ぎやーーーーーー。。
 
身体いっぱい手術室いっぱいの産声。
 
 
 
 
生まれると覚悟したものと産みたいと覚悟したものと産んで欲しいと願うものとが奇跡をおこした瞬間でした。
 
ふにゃホカの彼の頬に
 
ようこそ。
 
のキスをしました。
 
流れたひとすじの涙で今までのことが胸の奥に優しくそっとしまうことができました。
長い妊婦生活の終わり、そして、彼との新しい始まり。
 
 
眠ってもらいますね。
 
その声を聞いて私はスーッと眠りに入りました。
 
 
次に彼に会えたのは12時間後。
 
容態の急変で命を医療に助けていただくことになるなんて、全く思っていませんでした。
 
 
つづく
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

誕生! 1幕

あれよあれよと入院して、いわれるがままモニターをつけて観察すること1時間。

外で診ていただいたU先生がいらして
「担当させていただきます。Uと申します。今の状況と今後のことを説明しますね。」
とても渋くていいお声でお話ししてくださいました。
 
このU先生、ロマンスグレーの短髪にやや角ばった輪郭。恵比寿様のようなふくよかな耳。
安心感を全身から発していらっしゃいます。
 
落ち着いた声色でモニターから読み取れる赤ちゃんの様子。
私の筋腫を含めての身体の様子
これからのこと。
淡々と、冷た過ぎず緩すぎず。短く的確に分かりやすく。
素晴らしい説明でした。そして、これから出産することへの覚悟へわたしを優しく導いてくれました。
 
2日後。帝王切開にて。
はぐくんできた、小さな命に出会います。
 
……………………………………………………………………
 
 
 
と。そんなこんなの穏やか覚悟劇で、家族も家路に着きました。
わたしも、モニターからの小さな心音を心地よく耳にし、もう直ぐ出会うこのハーモニーを奏でる主を想像しながら、一人ベッドの上で心静かな夜を迎えておりました。
 
 
遠くからパタパタと廊下をかける音。慣れない夜の病院で聴覚は鋭くなっていました。
この街で深夜働く医療従事者の方々を思いながら、大変なお仕事だなぁと呑気に思っていると、その足音はわたしの部屋の前でピタッと止まり。。。。
 
今から手術になりましたよ。準備しましょうね〜。
 
事態は急展開! 予定誕生日は繰り上げ!
 
えーーーーー?今から?
思わず、マジ?っと普段使わない言葉がわたしの口から飛び出て、助産師さんもマジ!っと合わせて返し、にっこり。
わたしもにっこり。ほっこり………してる場合じゃありません。
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!
 
驚きを消化しないまま、驚いたまま、わたしは看護師さんの指示通り着替えたり、処置されたり。
慌ただしく働く看護師、助産師さんの間からU先生登場。
「赤ちゃん苦しそうだから、もう、出してあげましょう。今なら元気だから!頑張りましょ!」と勢いよく声をかけて、颯爽と去って行きました。オペ室に。
間髪入れずに麻酔科の先生。
明らかにわたしのために起こされてきたご様子。少しワイルドなヘアースタイルのまま。
「麻酔科の〇〇です。お部屋準備して待ってますからね。」とふにゃふにゃの声で挨拶して去って行きました。オペ室に。
 
それから看護師、助産師さんの動きはみるみる加速していきました。
BGMはドリフの8時だよ全員集合!で流れる、場面転換の曲!
そう!あれ、あれ。
チャチャチャ    ちゃっちゃらチャッチャ     ちゃっちゃらチャッチャ     チャチャちゃーん  ♬
チャチャチャ     ちゃっちゃらチャッチャ    ちゃっちゃらチャッチャ     チャチャちゃーん ♬
 
わたしは一切をプロフェッショナルのお仕事に委ねて、「お誕生日繰り上げ!」ともう1人の命の源の方にメールを一通送りました。
 
つづく
 
 
 
 
 
 
 
 
 

あれよあれよと 入院。

妊娠38週目、もういつ生まれてもいいよー。
しかし、なかなか下がってきません。モニター観察していると、心拍が落ちることがありました。
姿勢を変えて、すぐに回復しましたが、緊急の時に筋腫が邪魔して対応できないとのことで、大きな病院を紹介されました。
受診してみると、今から入院してください!

えーーーーー。です!

すぐに家のこと、上の子供たちのことがダダ〜っと頭をよぎって。
一回戻らせて下さい。とお願いしました。

すると、お母さん!今はお腹の赤ちゃん守って下さい!
医師の厳しいでも、当然な言葉が返ってきました。

そうです。この授かった命を守れるのは私にしか出来ないのです。

何としても、守らなきゃ!です。

ということで、そのまま入院。
バタバタ検査して、連続モニタリング中です。赤ちゃんの心音がずーっと聞こえてるので、なんだか今まで以上に愛おしく感じます。


大きなおなかが抱える、小さな悩み

つま先から指先まで神経を研ぎ澄ませ、創造を表現することに取り憑かれて生きてきました。

というと、大げさなのかもしれませんが、身体を動かすことを仕事としています。
ですから、ボディケアーやメンテナンスが歯を磨くことと同じように、日常に溶け込んでいます。

人の身体に触れることも多く、道行く人の歩き方や立ち姿を観察して、その人の癖や動きの様子を想像することも良くあります。
大切な人との暖かくとけるような静かな時間の中でも、
ここの筋肉が張ってるな〜とか
ちょっと関節が動きずらいな〜 などと感じてしまう困った癖もあります。

ちょっとどうでもいいことでした。

とにかく、手が開けば無意識に足のケアをしています。裏をもみもみ。指をクルクル。
そして、冷やすことが嫌いなので一年中5本指ソックスを履いています。
妊娠35週。大きくなったおなかでは、このソックスが履きにくい!!
お風呂で洗うことも爪を切ることもとってもやり難い!

そんなの履かせてもらえば、切ってもらえばいいじゃん。っと言われてしまうかもしれませんが、この日常が出来なくなることってとてもストレスになります。

届くところに届かない。

期間限定の妊娠生活の中で、嬉しいこともたくさんありますが、自分の身体が思い通りに動かし難いということはこんなに大変なことかと感じます。
これもかわいい赤ちゃんに会うため!
もう少しの時間だわ!
と自分を励ましながら、今日も5本指ソックスを履いています。

はぁ〜。もう少し、もう少し!



運動してください。下がってませんよ!

妊娠35週に入りました。

おなかも重く、足元も見えないので動きもゆっくり。

肋骨まで届きそうな力強い胎動にイタタタっと声をあげて、よいっしょ!の掛け声が違和感なく出てくるようになりました。

体重増加もここのところは赤ちゃんの分だけぐらいにとどまり、軽い貧血以外は優秀妊婦さん! と自負しておりました。

前回までは、筋腫さんも少し小さくなっていて、このままいけば自然分娩で下から産みましょうね〜!
なんて会話を担当医の先生と交わしておりました。

わたしもはじめてのことでもないので、はいはーい!とお気楽に構えておりました。

 ところが‼︎

 先日、エコーを見る先生のお顔がちょっと曇り気味。
あの…。運動してます?と聞いてきました。

えー?

というのも、もともと身体を思いっきり使った仕事ですので、今もできる範囲で身体を動かし続ける日々を送っています。そんなに動いて大丈夫か?と周りが心配するほどです。
ところが、先生はうーんと唸りながら

歩いたり、マタニティ体操とか、とにかく運動してください!!

と、鼻息荒く言ってきました。おまけに、最終宣告のように

次の健診で下がってなかったら、国立の病院を紹介しますね〜。と……。

なに〜!!
ということは、帝王切開の可能が再び浮上してきた!ってことなのか?
(切るなら、うちじゃダメなので、国立の大きな病院ね。っと言われていましたので。)


もちろん、赤ちゃんもわたしも元気に無事に出産することが何より優先で、そのためならどんな方法でも構わない!とくくりきれない大きな腹をくくってはいるのですが、6度目の出産、40代になる今になって…。の気持ちは拭えません。
出来る限り、切らずに産みたい!と思っていますし、ここのところの様子は下から〜!な感じでしたので、振り出しに戻った何ともトホホな気分になりました。

次の日から 、普段の生活にお散歩をプラスして、てくてく歩いております。


運動しますよ!下がってください!

おなかをなでながひとり、つぶやいております。